至高のスタイリングで現代に蘇る。デ・トマソP72
みなさんは“デ・トマソ“という自動車メーカーをご存知でしょうか?
遡る事60年。1959年にレーサーであったアレハンドロ・デ・トマソによってイタリアのモデナに立ち上げられた会社です。
自動車メーカーとは言ったものの設立当初は市販車を製造するのではなく、もっぱらレース用のフォーミュラカーのフレームを製作する事がメインの会社であったようです。
そんなデ・トマソが試作車を除き本格的な市販車の販売を開始したのが1966年、米国のフォードとの共同開発によって“マングスタ“という車を世に送り出します。
エンジンはフォード製4.7リッターV8を搭載し、エクステリアなどは自動車デザイナー界の至宝ジョルジェット・ジウジアーロが設計に携わっていました。
そしてマングスタ発売から5年後の1971年、デ・トマソ史上最も成功したといわれる“パンテーラ“が発表されることとなります。
デザインはカロッツェリア・ギアのトム・チャーダが担当、エンジンはフォード製5.8リッターV8エンジンを搭載し、リンカーンとマーキュリーの契約ディーラーで販売されました。
しかし1970年代に起きたオイルショックによって共同開発、販売をおこなっていたフォードが撤退。
その後アレハンドロ自らの手腕によりなんとか事業拡大を成功させるも、自動車メーカーデ・トマソとしてはパンテーラのリファインモデルなどの製造、販売を繰り返すにとどまりました。
それからしばらく経った1994年。満を持して一から設計、開発をおこなった“グアラ”と2シータースポーツの“ビグア”を立て続けに販売しましたがどちらも奮わずに終わることとなります。
支えとなっていたパンテーラの製造も1993年に打ち切っており、それと同時に創設者のアレハンドロが病に倒れ療養に入っていましたが2003年に心不全で他界。
同社は2004年にアレハンドロの遺族によって解散されました。
それから7年後の2011年ジュネーブ・モーターショーで復活を遂げたデ・トマソはコンセプトカーを発表するも2014年には資金難によってモデナの工場を閉鎖。
同年に香港のIdeal Team Venture(ITV)という会社が経営権を取得しています。
前置きが長くなりましたが、そんな往年の名車を生み出したデ・トマソが長きに渡る沈黙を破り、先日イギリスで開催されたグッドウッドフェスティバルにて遂に復活を遂げました。
新型車の名前はP72。
期待されていたパンテーラの後継ではなく、かつて1964年にキャロル・シェルビーとアレハンドロ・デ・トマソが共同開発した試作車“P70”という車からインスピレートされたオマージュ的な意味合いを持つ車です。
プロジェクトを進めたのは経営権を持つITV。
CMOを務めるライアン・ベリスが、「P72はパンテーラがデビューした時のように、新たなカテゴリーを創造し、ベンチマークとなる。私たちは、過去の素晴らしいマシンへオマージュを込めた最新の車を生み出した。」と、コメントしたようにデ・トマソP72は今まで他のメーカーがおこなってきた安易なオマージュなどとは一線を画す仕上がりになっています。
シャシーにはApollo IEに使用されているものと同様のフルカーボンモノコックを採用しているということが判明していますが、パワートレインに関しては現時点でまだ具体的な発表はされていません。
最大の特徴であるエクステリアですが、車体前面、特にヘッドライト周りの曲線美などはモデルとなったP70の面影を残しつつ最新のエアロダイナミクス技術を落とし込んでありルックスの良さはもちろんの事、決して無駄のない機能美も兼ね備えています。
ボディ中ほどからはプレスと曲線をうまく利用した現代的な流線型のデザインを取り入れつつ、リアのエアインテークに効率的に空気が流れるようになっているのが伺えます。
こちらは1966年にフェラーリがル・マンに投入した名車330P4を彷彿とさせますね。
ルーフから車体後方にかけてなめらかな曲線を描きながら、大口径のマフラーを車体上部より天に向けて配置することで大胆かつエキゾチックな印象も垣間見えますし、ジェットエンジンの排気ノズルを思わせるようなテールランプの間にはハニカム柄のガーニッシュを配置するなど、美しさと遊び心を絶妙なバランスで両立させたものとなっています。
インテリアは金属とレザーを基調とし、シートをはじめとして全体的に菱形の柄をあしらい、丁寧に磨き込まれたブロンズのような質感のメーターフードにはローマ数字で配列された時計盤がはめこまれ、華やかでありながらも決して嫌みのない高級感を演出しています。
特筆すべきはシフト部分。
天体を思わせるようななめらかなシフトノブの下では変速機構が剥き出しになっており、レーシングカーをルーツとした車ならではの大胆な表現方法がとられています。
これだけメカニカルな部分を露わにしていながらも、美しさを保つどころかむしろ引き立たせているということに驚嘆せざるをえません。
トレードオフの関係になりがちな機能性と芸術性をここまで高レベルで両立したこの車は間違いなく現行車の中で最も美しいでしょう。
発表価格は75万ユーロ。日本円でおよそ9150万。
生産台数は車名にちなんで72台のみとなっているそうです。
古き良き名車のスタイリングと、最新のハイパーカー譲りの設計が溶け合い、調和し、受け継がれる。凡庸なデザインの車が溢れかえる現代において車とは斯くやあらんという指標となるべき車。
それが官能的なまでの美しさを誇るデ・トマソP72なのです。
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